ノートテイクで聴覚障害の学生を支援しようと思ったきっかけや、私が感じたノートテイクの難しさなどをお話しします。
ノートテイクを始めるきっかけは、私の学生時代にさかのぼります。
学生の頃とても成績が悪かったのですが、先生は人柄の良い人で、理解力も記憶力も悪い私に熱心に教えてくれました。
私なりに頑張りましたが、先生の親身な指導の甲斐なく、大変申し訳のない気持ちでいっぱいだったことを覚えています。
そんな私とは逆で、学習能力が高い聴覚障害を持つ友人が同じクラスにいました。
その友人の様子を見ているうちに、ノートテイクで聴覚障害を持つ学生のサポートをしたいと考えるようになりました。
せっかく勉強が得意なのにもかかわらず、聴覚障害のせいで講義内容が理解できずに、もし学習意欲を失ったりすることがあれば、もったいないですから……。
自分自身は勉強することが苦手でも、そういう学生の手助けならできるかもしれない……。
こうして私は、ノートテイクの世界に踏み出したのです。
聴覚障害を持っている人は、講義などで先生の話していることが聞き取れなかったり、聞き取りにくかったりします。
そういう学生のために、先生は講義をゆっくり進めたり、いつもより大きな声で話してくれることは残念ながらないでしょう。
でも、それでは聴覚障害の学生は授業についていけなくなってしまいます。
そんな時に役立つのが、ノートテイクです。
これは多くの大学などで取り入れられているボランティア活動の一つです。
最初は、速記で通訳するようなものだと聞いていたので、とても自信がありませんでしたが、1人の聴覚障害学生に対して基本的に2人でノートテイクを行うとわかり、なんとか出来そうだと希望が湧いてきました。
ただ1フレーズ交代かと思っていたら、15~20分ぐらいで交代ということで、スピードについていけるか不安でした。
ノートテイクには、先生が資料や教科書を読んでいる際、どの箇所を読んでいるのかをペンで指す作業があります。
その作業は容易にできるので、気持ちがホッと楽になります。
しかし、速記による同時通訳は、やはりスピードについていくのにとても苦労します。
案の定、ノートテイクを始める前に感じていた不安が的中してしまいました。
特に早口で話す人や複数の人同士のやりとりの場合は、さらに書くスピードが要求されます。
本当に困るのが、モゴモゴと発音が悪い人が話す時です。
どうしても聞き取れない時は、前後の発言から推測するしかありません。
また、『聞きなれない言葉=聞き取れない言葉』になりがちなので、講義内容の知識もある程度必要だと感じました。
もし講義内容を全部書くことが難しければ、臨機応変に重要な内容だけでも伝えることに徹します。
何度も話が途切れた文章を書いてしまい、ノートテイクが必要な聴覚障害の学生に迷惑をかけることがないように心がけています。
ノートテイクは聴覚障害の学生が、他の学生と同様に講義を受けられるようにするものです。
先生の言いたい要点を理解して、簡潔な文章を書くのは、かなりの頭の良さが必要だと感じます。
一般的に1分間で話す言葉を文字に起こすと300文字以上、書ける文字数は60文字程度だと言われています。
同時通訳をするためには、要約の能力が必須です。
要約のテクニックとしては、略語を多用しながら、瞬時に講義内容を簡潔な文章に直すことです。
講義内容の理解力、速記、要約など様々な力を振り絞るため、ノートテイクをやり遂げると、心身ともにかなり疲れます。
それでも、その達成感が嬉しくて、ノートテイクのボランティアを続けられています。
ノートテイクが聴覚障害を持つ学生の役に立つことは実感しています。
ノートテイクのいいところは学生のためということに限らず、講義の内容を分かりやすく伝えるにはどうすべきかを考えなければならないので、自分自身の勉強にもなります。
心身ともにエネルギーを必要としますが、とても奥が深く興味深いボランティア活動だと言えるでしょう。
聴覚障害の学生にお礼を言われると、大きな喜びを感じると同時に、もっと出来る限りのことをやらなければ!と気持ちが引き締まります。
ノートテイクというボランティア活動は速記や要約などの多少の専門技術が必要ですが、訓練を積んでいき慣れると、要領も分かってきて作業しやすくなってきます。
1人の聴覚障害者に2人のノートテイカー(場合によっては3人)がつくため、ノートテイクを必要とするすべての学生が利用できていないケースもあるでしょう。
そのようなケースをなくすためにも、ノートテイクの技術を学ぶ人が少しでも増えてくれることを願っています。
学生時代のとある経験がきっかけで、ノートテイクの世界へ。
その難しさと重要性を同時に感じています。