福祉の業界で様々な仕事をしてきた私。
働く場所が変われば、患者さんや利用者さんなどとの関わり方も少しずつ変わってきます。
福祉の仕事にいくつか携わってきた私ですが、病院のリハビリテーション科で作業療法士として働いたことも、その一つです。
作業療法士には医師から、内科疾患や呼吸器疾患、神経内科疾患、精神疾患、小児疾患などの患者さんの処方箋がきます。
患者さんそれぞれの疾患が異なるのはもちろん、年齢や性別、性格、生活してきた環境も違います。
多くの患者さんは、「自宅に戻りたい」という気持ちで毎日リハビリに励んでいます。
中には、退院後に福祉施設に入所される人や、福祉施設に入所中に体調を崩して入院したため、再び福祉施設へ戻ることを目標としている人もいます。
福祉の仕事にも色々ありますが、作業療法士の仕事の最大の魅力は、患者さんの「これが出来るようになりたい」という目標を一緒に目指し、その目標が達成できたときには喜び合えることです。
「もう一度歩けるようになって、孫と散歩に行きたい」
「家族にまた手料理を作ってあげられるように、手の動きを良くしたい」
等……リハビリをすることで達成したい目標は個々で違います。
私は作業療法士として、その目標を一つずつ達成するためにどの訓練が適しているかを悩み、考えながら患者さんと時間を共にしました。
疾患により身体機能が低下した患者さんは、すぐには思うように良くなりません。
いつになったら良くなるのだろうかと不安を感じながらリハビリをしている人も多くいます。
その不安と向き合いながら仕事をする私も、悩みは尽きません。
しかし、目標に近づいたり、達成したときに患者さんの笑顔が見られると、とても嬉しくなりますし、共に喜び合えたときには仕事の魅力を感じ、やりがいにも繋がりました。
高齢社会に伴い、病院は常に高齢者の患者さんが多く、空きベッドがないという状況も多く見られます。
例えば、自分の親が病気や障害を抱えてしまった場合に、家族が抱える不安は「はたして面倒を見ていけるのかどうか」ということです。
障害を抱えながらも、どのようにしたら服の脱ぎ着や入浴などの日常生活動作をスムーズにできるのかを患者さん本人に分かりやすく説明するように心がけていました。
さらに、本人だけではなく、家族の方の不安を取り除くために、介助・介護方法を丁寧に指導することも大切です。
福祉の仕事と言えば、介護老人保健施設で3年間働いていたこともあります。
病院とは作業療法士としての関わり方が違うのはもちろん、その他にも介護老人保健施設ならではの経験をしました。
介護老人保健施設に入所している利用者さんの多くは、要介護3以上の高齢者が多いです。
排泄や入浴動作に介助を必要とする利用者さんが多いため、それぞれの症状に合わせて筋力増強や立位保持のバランスの能力を高める等のリハビリ目標を設定し、それに合わせたリハビリの仕事をします。
病院に比べて、介護老人保健施設ではリハビリの時間が極端に短く、1回20分を週2~3回行うことがほとんどです。
高齢者の方は筋力が低下しやすく、筋力が付きにくいという特徴があります。
そのため、リハビリの時間だけ運動を頑張っても、身体機能を向上させることは難しく、身体機能を維持する程度までしかできません。
リハビリの時間が少ない介護老人保健施設では、日常生活の様々な動作自体がリハビリになるような工夫がなされています。
そのような工夫のことを「生活リハビリ」と言います。
生活リハビリでは、食事・排泄・更衣・整容・入浴動作など自力でできることは利用者さん自身にやってもらい、手伝いすぎないことが大切です。
どうしても一人でできない難しい部分だけを手伝うようにします。
そうすることで、身体を動かす時間が増え、生活自体が運動の機会・リハビリの機会となるのです。
作業療法士である私も看護師や介護士と共に、利用者さんの身体状態に合わせた生活リハビリを考えながら仕事をしていました。
一見、職員が行うような作業を利用者にお手伝いをお願いすることも、介護老人保健施設の特徴と言えます。
主にタオルたたみや昼食の配膳、植木の水やりなどの簡単なお手伝いですが、これも生活リハビリの一環です。
利用者の中には、「介護をしてもらって迷惑をかけていないかな」と感じている人も多く見られます。
しかし、職員のお手伝いを通して「ありがとう」と言われると、誰かの役に立てたと嬉しくなるという声をよく耳にしました。
福祉の分野では、高齢化に伴い、身体機能を維持するための生活リハビリに注目が集まっています。
高齢化に伴い、病院へ長い期間入院することが出来なくなり、福祉施設への入所待ちの高齢者の数も2桁以上となっています。
病院を退院しなければならないけれど、福祉施設へは入れないという介護を必要としている高齢者は、自宅へ戻るしかありません。
そんな中、自宅でも安心して過ごせるようにという目的で、訪問看護ステーションを利用する人が増えています。
自宅で生活している高齢者は、障害を抱えている場合も多く見られます。
そのような高齢者の在宅生活を少しでも負担の少ないものにすることが、訪問介護ステーションで働く者の役割です。
訪問看護ステーションでの仕事も、リハビリを通して利用者の身体機能の維持・向上を目指しました。
様々な福祉サービスがある中で、作業療法士の私は主に福祉用具と住宅改修に携わりました。
現在の身体状態でどの福祉用具が適しているのか、福祉用具で対処できない場合は住宅改修の検討などを行います。
在宅で生活している高齢者だからこそ、生活スタイルに合ったアプローチをしなければなりません。
「春になったら桜を見に行きたい」「孫の運動会を見に行きたい」等、様々な気持ちを聞きます。
福祉の専門職としての立場から「腕の力が低下してきたからそこを改善したい」と考えていたとしても、時にはその方の気持ちに寄り添うようにしています。
「桜を見に行けるように、車椅子に長く座れるだけの体力をつけよう」
「孫の運動会に行けるよう、長く歩けるようにリハビリをしよう」
等と目標を一時的に変更することも必要になるでしょう。
自分の気持ちに寄り添ってくれていると利用者自身が感じることは、その方の意欲の向上や私たちリハビリ専門職への信頼感に繋がります。
訪問看護ステーションを利用している高齢者は、介護を要している場合が多く、ふとした転倒や加齢により、身体機能も低下しやすい状況にあります。
どの福祉施設で働く場合も、介護者の方のサポートも忘れてはいけません。
現在の家族の介護負担はどの程度なのか、具体的にどのような介護に負担が大きいと感じているのか等に目を向けることを私自身、とても大切にしていました。
高齢者が在宅で長く生活するためには、介護者の身体的・精神的負担を増加させないことが重要なポイントなのです。
介護負担を軽減するための福祉用具もたくさんあります。
高齢者の介護をして介護者が腰などを痛めないように、福祉用具を上手に利用しながら介護する方法をアドバイスすることも。
その結果、介護を受ける方だけでなく、介護の負担が軽くなった家族の方にも笑顔が多く見られるようになった時、福祉の仕事に携わる者として、とても嬉しく思い、やりがいも感じます。
作業療法士としてのやりがいを感じながら働いています。